栗原はるみの対談シリーズ vol.1「料理家は、楽しい」

栗原はるみの対談シリーズ vol.1「料理家は、楽しい」

栗原はるみが「もうひとりの息子のような存在」というケンタロウさん。意外にも、対談というかたちでゆっくりと話す機会は、あまりなかったふたり。共演中の日本テレビ「スッキリ!!」の収録の後に、お茶とケーキでひと息つきながら行われた対談は、日々のくらしのことから、「料理家」としてのスタンスまで、話がつきることがありませんでした。

1972年東京生まれ。
母は、料理研究家の小林カツ代。イラストレーターとして活動をはじめ、その後、料理研究家に。
料理のモットーは、「簡単でおいしくって、洒落っ気があって現実的なもの」。ひとり暮らしの若者から主婦、男性など幅広い層に向け、チャレンジしやすくておいしいメニューを提案し続けている。

INDEX

  • 第1回 大先輩、かつ友達のお母さん
  • 第2回 私のキッチン、ぼくのキッチン
  • 第3回 それぞれの元気のもと、人生の流儀。
  • 第4回 知られざる料理家の苦労
  • 第5回 料理家ってすばらしい仕事

第4回 知られざる料理家の苦労

栗原
料理家になってよかったって、この頃つくづく思うのよ。
ケンタロウ
どうしてですか?
栗原
だって定年はないし、試験もないし資格もいらないし(笑)
ケンタロウ
ほんと、いい仕事ですよね。料理家の仕事で大変なことってないですよね。
よくレシピが思い浮かばなくて苦労することはありませんか、
とか聞かれるけど、それはないし……
栗原
そう、料理は作りつづけていればレシピはでてくる。
ケンタロウ
うん、レシピが出てこなくなったら料理家やめます。
栗原
そうね、レシピがでないってことは
この仕事に向いてないってことよね。
ケンタロウ
まあ、ちょっとイマイチかなとか、
ありきたりかなとか悩むことはあるけれど、
それも楽しめる範囲ですし、
思い浮かばなくて何日も眠れないなんてことないですからね。
なんか苦労することってありますか?

ケンタロウさんと栗原はるみさん

栗原
私は分量出し。たとえば今日の白菜のあんかけね。
あれはお鍋をやった次の日、
残った白菜でちょちょっと作るものなのよ。
だから分量のことなんか考えないでぱぱっと作ると、
すごくおいしくできる。
それを分量だしてレシピにしてってやってると、
なんだかそのフィーリングが伝わらないのよ。
うちでいつもやってるものとは別物になっちゃう気がして。
ケンタロウ
わかります。レシピにするとわざわざ白菜買ってきて、
ひき肉も100gきっちり用意してみたいになっちゃって、
違うだろう、みたいな……。
ぼくの場合、この仕事しててつらいなあってこと、ないんですけど、
しいていえば旬の食材が使えないってことかなあ。
6、7月頃サンマ特集とかやらなきゃなんなくて、
やっと旬になったころにはもうさんざん使い倒してるから、
初物の感激も味わえない(笑)
栗原
つらいよね。だから私は、たけのことかゆずとか、1年前に先撮りしてる。
前にも言ったけど、料理って、これで完成っていうことはないんですよ。
このシフォンケーキだって、今日は上手にできたけど、同じ分量でも毎回違うのよね。
ケンタロウ
おいしいですよ、ぼく、これで3キレめです(笑)。
それでも栗原さんはさらに上をめざすんですね、これでよしってことはない、と……。

シフォンケーキ

栗原
私にとってシフォンケーキって、特別なものなのよね。
まだ仕事を始める前の専業主婦のときに作り始めたから、
上手に作れることが自信につながったし、自分の支えにしてたの。
何回も何回も作って、みんなに食べさせて、おいしいっていわれる。
そうやってがんばる自分でありたい、みたいな。
シフォンケーキが私の財産だったのね。
その初心を忘れないで、これだけはだれにも負けないくらいおいしく作れるよう、
がんばりつづけることを自分に課してる。
ケンタロウ
これだけおいしければ十分、もういいじゃない、
ってことはないんですね。
栗原
思ったとおりに卵白が泡立って、ふくらんで、型もすっとはずせてって、
すべてがうまくいくことって、なかなかないのよ。
そりゃいちおう完成はするけれど、
そこで満足したらもう前には進めないじゃない。
料理って、やればやるほどよりおいしく、手早くできる道が見つかるのよ。
完璧ってありえない。
ケンタロウ
栗原さんが泡立ててるときの集中力、すごいですもんね。
栗原
力じゃないのよ、遠心力っていうか……、
ケンタロウ
フラフープみたいな……。
栗原
そうそう、それも何千回とやってるからコツがわかる。
やっぱり回数をこなさなきゃ。
アシスタントまかせにしてたら、腕も鈍るし尊敬もされない。
がんばる私をみせなきゃ。
ケンタロウくんにもそういうもの、あるでしょ?
ケンタロウ
そうですねえ、ハンバーグかな。
それなりにうまいと思うものはできても、
これでおしまい、完璧ってことはない、
まだどっか、なにかあるんじゃないか、と……

栗原はるみさん

栗原
へえ、食べてみたい。どんなハンバーグ?
ケンタロウ
いや、普通のケチャップとかウスターソースとかで作る
いんちきデミソースで煮込むんですけど。
栗原
私も実はハンバーグって、納得のいくレシピがまだできていないの。
お肉がおいしければそこそこの味にはなるんだけどね。
ケンタロウ
だけど、だれでも買えるスーパーの普通のひき肉でもおいしくできないと……。
栗原
そうなのよね。どこにでも手に入る材料でだれでも90点はとれる。
そういうレシピを出すのが大変。
私たちの仕事ってレシピがすべてだから、
分量出しのためには何度も何度も試作して、
これならだれでもこの味がだせるってところまでやらないと。
私たち、試験がないんだからそれくらいしないと、
本を買ってくださるかたに申し訳ない。
ケンタロウ
その通りです。1回作ってまずかったら
もう2度とぼくの本、買ってもらえなくなりますから。
栗原
そうなのよ。だってしょうゆだってお酢だって、
私の使っているものと違うわけじゃない。
それでも大さじ1って書かなきゃならない。
それに作る人がほんんとにレシピどおりに作ってるかどうかわからないじゃない。
たとえば材料の水気をよく拭いてって書いても、
めんどくさくてしない人だっている。
それでも80%以上の人がおいしいと納得してくれる、
そういうレシピにするのが料理家の仕事よね。
それでお金をもらってる。
ケンタロウ
そうですね。
お店だったら味のほかにも雰囲気とかサービスとか
ほかの要素があるけど、
ぼくらレシピだけですもんね。
栗原
レシピを見て作ってくださるかたのために、お互いがんばりましょう。

 

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